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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)13432号 判決 1999年2月15日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求原因1(二)の事実は当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、一郎は、昭和三九年四月三日生まれの男性であり、本件事故当時、二九歳であったこと、一郎の身長は、一七二センチ、体重は六〇キログラムを少し超えた程度であったこと、一郎は、平成八年八月五日に死亡したこと、原告は、一郎の父であることが、それぞれ認められる。

二  請求原因2(本件事故の発生)について

《証拠略》によれば、一郎は、平成五年八月九日昼前、アクアパークに泳ぎにいこうと考え、中学校時代からの友人である乙山、乙山の妹とその子二人と共に、アクアパークに料金を支払って入場し、本件プールで泳ぐなどしていたが、午後三時三〇分ころ、本件プールの別紙図面の<1>地点付近から、手を伸ばした状態で逆飛び込みをし、本件プールの中央付近(別紙図面の△付近)に頭の方から着水し、本件プールの底で頭部を打ち、頚髄損傷を負い、両上肢体幹機能障害の障害を残したこと、一郎は、水泳は得意であって、本件事故当時、特に健康上の問題を有してはいなかったことが認められる。

三  請求原因3(被告の責任)について

1  《証拠略》によると次の事実を認めることができる。

(一)  アクアパークは、全長一〇〇メートルの人工の流れが作られた流水プールの本件プール、ウォータースライダー、人工的な波が作られた造波プール、レストランなどを有するレジャー施設である。

(二)  本件プールの深さは、満水時で約一一〇センチメートルの深さであって、本件事故当日は、水面が身長約一七〇センチメートルの乙山の胃の付近にくる程度の深さであった。

(三)  被告は、本件事故当日、アクアパーク内において逆飛び込みなどの危険な飛び込みを禁止する旨のアナウンスを一時間に一回の割合でしており、また、本件プールには、少なくとも二名の監視員を配置していたが、危険な飛び込みを禁止する旨の掲示はしていなかった。

2  一郎は、平成五年八月九日、入場料金を支払ってアクアパークに入場することにより、被告との間で本件プールを含むアクアパークの利用契約を締結したものというべきところ、アクアパークは、レジャー施設ではあるが、不特定多数の利用客が水泳というそれ自体一定の危険性を伴う行為をすることを予定した施設であるから、被告は、一郎などアクアパークの利用客に対し、アクアパークの施設の利用に伴って、生命・身体の安全に一定の配慮すべき義務を負ったものと認められる。

3  しかしながら、プールにおける水泳等をする際には、一次的にはプールにおいて水泳を行う者が、自ら自己の生命・身体に危険が及ばないようにするべきであって、被告は、プールの利用者がそのような危険を認識し得ないか、又は、危険を認識し得てもこれを避けることが困難な事情がある場合に、必要な範囲内で前記のような義務を負うものというべきである。

4  本件プールは、満水時で深さが約一一〇センチメートルで、本件当日も、身長約一七〇センチメートルの乙山の胃付近までの深さしかなかったところ、本件プールがこの程度の深さしかないことは、プールサイドから他の利用者の利用状況を見るなどによって知ることは容易であると考えられるし、少なくとも、一郎は、三時間以上をアクアパークで過ごし、本件プールで泳ぐなどしていたのであるから、本件事故時までには本件プールの深さを認識していたものと推認することができる。

ところで、逆飛び込みは、一般に、飛び込む者の体格や技量、入水の角度、プールの深さなどによっては、プールの底で頭を打つ危険のある飛び込み方であるが、とりわけ本件プールのような満水時で一一〇センチメートルという深くはないプールに、身長約一七二センチメートルの者が飛び込む場合には、その危険性は大きくなる。一郎は、本件事故当時二九歳という分別のあるべき成人であり、水泳も得意であったことからすると、本件プールにおいて逆飛び込みをすることの危険性を認識することは容易と認められる。

そうすると、一郎としては、本件プールに逆飛び込みをするという危険な行為をする場合には、自らの責任においてするべきであり、被告は、一郎に対する関係においては、原告の主張するような具体的な義務を負うものではないというべきである(仮に、一郎が本件プールに逆飛び込みをしないような措置を執るべき義務があったとしても、前記認定のとおり、一時間に一回の割合で逆飛び込み等の危険な飛び込みが禁止されている旨をアナウンスすることによって、右の義務は尽くされているというべきである。)。

四  以上によると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年一二月一四日)

(裁判長裁判官 水上 敏 裁判官 藤田昌宏 裁判官 齊藤充洋)

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